ウレタン麻酔ラット陰嚢皮膚への非侵害性温度刺激(10ー40℃)に応ずる脊髄後角ユニットが‘温度応答性ユニット'として記録され、発火頻度が皮膚の加温により増加するもの(温応答性ユニット)と、皮膚の冷却により増加するもの(冷応答性ユニット)との二つのタイプに分類された。先ず、当初仮定された脳幹部縫線核および青斑核の下行路によって温度応答性脊髄後角ニュ-ロン活動が影響されることは、本研究の遂行により明白に実証された。調べられた大縫線核および青斑下核の電気刺激は両核共に、温および冷温度応答性ユニットの両タイプの大多数に対して抑制的効果を示し、促進的効果は極めて小数のユニットに見られたに過ぎなかった。最も著明な刺激効果は、調べられた44温応答性ユニットの95%が大縫線核により、12冷応答性ユニットの83%が青斑下核により、程度の差はあるものの、その発火活動が抑制されたことであった。大縫線核の冷応答性ユニットへの、又青斑下核の温応答性ユニットへの効果は共に、約半数が抑制的であり、残りは無反応であり、判然とした傾向は示さなかった。両核の電気刺激のの効果の特長としては、大縫線核刺激においては、温度刺激により生ずるユニットの温度応答が比較的短時間(数分間)強く抑制されたが基礎的発火活動は保持されたのに対して、青斑下核刺激においては、ユニットの温度応答のみならず基礎的発火活動の強い抑制がより長時間(30分以上)続いたことであった。これらの実験結果は、先ず脳幹部縫線核および青斑核の下行路によって末梢温度受容器から体温調節中枢への制御温度信号の脊髄伝達が修飾されることを示唆すると考えられる。更に大縫線核は温応答性ユニット活動を、又青斑下核は冷応答性ユニット活動を高率に抑制するという結果は、温信号と冷信号の上行性伝達のそれぞれ独立した統御機構が存在することを示唆するものであるかも知れない。
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