前年度からの継続の本研究課題の本年度の実施計画は、前年度の実験により実証されたところうの末梢温度信号脊髄伝達の脳幹部大縫線核および青斑下核による明確な下行性調節作用の根底となるウレタン麻酔ラット陰嚢皮膚への非侵害性温度刺激(10ー40°C)に反応する温・冷温度応答性脊髄後角ユニットの(1)例数の追加と、(2)その調節作用の伝達経路の薬理学的解析であった。本年度に施行された追加実験が蓄積された結果、温・冷温度応答性ユニット総数65例が脳幹部からの下行性調節作用について検討された。44例の温応答性ユニットにおいては、大縫線核刺激44例中95%が抑制、青斑下核刺激32例中47%が抑制され、50%が反応を示さなかった。一方17例の冷応答性ユニットにおいては、大縫線核刺激16例中63%が抑制され、25%は無反応であり、青斑下核刺激14例中79%が抑制された。この結果に見られる一つの傾向として大縫線核による温応答性ユニットの抑制作用および青斑下核によるは冷応答性ユニットの抑制作用は、末梢からの入力温度情報の脊髄伝達において、温信号は大縫線核による、冷信号は青斑下核によるそれぞれ特異的調節作用の存在を示唆するかも知れない。最も明解な大縫線核による温応答性ユニットの抑制効果に対するセロトニン拮杭剤メッシールギッド(1mg)の静脈内投与の実験が4匹の別個のラットにおいて行われた結果から、かかる抑制効果はセロトニン作動性経路によることが示唆された。計画されていた青斑下核によるは冷応答性ユニットの抑制効果に対するαー遮断剤投与の実験は、残念ながらそのための冷応答性ユニットの分離が因難なため実行出来なかった。 以上施行された実験結果の示すところは、中枢性体温調節に寄与する皮膚からの温・冷温度信号は、脊髄内上行性伝達過程において脳幹部大縫線核および青斑下核により下行性に調節されることであり、これは今まで明解に示されたことがない末梢からの温度情報の脳幹による遠心性調節の神経機構の存在を示唆する一具体例であると考えられる。
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