電気的に駆動したモルモット摘出左心房標本において、endothelin-(ET-1)は濃度依存性に陽性変力作用を惹起し、10nM以上の濃度では、投与後5分以内に最大に達する早期相と、投与後10分以降から発現し約60分から90分で最大に達する後期相からなる二峰性の陽性変力作用を示した。また、[^3H]myo-inositolでラベルした左心房標本において、ET-1は[^3H]イノシトール・一リン酸の産生を濃度依存性に増加し、そのEC_<50>値は75nMと陽性変力作用を起こすEC_<50>値(7nM)より高値を示したが、有意な産生増加を示す濃度は、二峰性陽性変力作用を惹起する濃度とほぼ一致していた。ET-1による早期の陽性変力相は、一過性に出現する活動電位幅延長作用と時間的に一致しており、またCa^<2+>拮抗薬であるnifedipineにより抑圧されることから、活動電位幅延長の間に流入するCa^<2+>によって惹起されるものと考えられた。一方、後期の陽性変力相は、C-Kinaseを持続的に活性化するpharbol esterや、C-Kinase阻害薬であるH-7およびstaurosporineの前処置により選択的に抑制された。ET-1は二峰性の陽性変力作用を起こす濃度で、C-Kinaseのcytosolからparticulateへの移行度から測定したC-Kinaseの活性を一過性に増強したが、このC-Kinase活性の増加した後に、C-Kinase阻害薬を与えても後期の陽性変力相には影響を与えないことから、C-Kinaseの活性化がET-1の後期の変力相の31金になっていると思われる。以上の結果から、ET-1はイノシトールリン脂質代謝回転を亢進することによってジアシルグリセロールを産生し、それがC-Kinaseを一過性に活性化させ、この活性化が何らかの情報伝達系と共に作用して、後期の陽性変力相を惹起するものと示唆された。また、ET-1はβ-受容体刺激と同様に休止後収縮を増強し、その後期変力相が筋小胞体のCa^<2+>を枯渇させるryanodineに極めて感受性の強いことから、C-Kinaseの活性化は筋小胞体内のCa^<2+>移送能を高める仂きがあるかも知れないことが推測された。
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