本研究では、IP_3によるCa^<2+>放出機構の性質を単一チャネルレベルで測定し、それによってIP_3濃度依存性、Ca^<2+>などによるモデュレーションの様式を分子レベルで追及することを目的としていた。この準備段階として、平成3年度にまず骨格筋小胞体の単一Ca^<2+>放出チャネルの性質を、脂質二重膜で測定する実験系を作り上げた。今年度はこの実験系を用い、IP_3チャネルを含む膜標品を用いた実験を開始した。しかし、脂質二重膜を用いた実験は筋小胞体膜標品を用いた時点から、人工膜の安定性、膜標品の融合の確率などが一定しない実験系の不安定さが存在していた。これは、この実験を行ういずれの研究室でも経験されていることのようである。IP_3チャネルを用いた実験はさらにこの問題が深刻であることが分かり、今年度中に意義のある結果を得ることが困難な見通しとなった。そこで、やむを得ず多細胞系の標本を用いた実験に切り替えることにした。この方法を用いて頭初予定していた分子機構に迫るため、ケージド化合物の光分解によってによって急速にIP_3あるいはCa^<2+>を投与する方法を用い、Ca^<2+>放出チャネルのミリ秒の時間経過の挙動を蛍光Ca^<2+>指示薬を用いて観測した。この方法によって、IP_3によるCa^<2+>放出は、放出されたCa^<2+>によって正帰還制御を受けることをはじめて実証すると共に、ケージドCa^<2+>を用いた実験で急速にCa^<2+>濃度を変えると、濃度変化にただちに引き続いて300nM以下のCa^<2+>濃度なら促進、それ以上の濃度では抑制効果がCa^<2+>放出速度にかかることが明かになった。このことはCa^<2+>による制御が燐酸化などを介するものでなく、Ca^<2+>が直接Ca^<2+>放出チャネルに作用する分子機構であることを示唆する結果である。さらに、IP_3チャネルの開口に対してIP_3濃度は弱いながら協同性を示すことも明らかにした。今後このような結果を踏まえ、さらに脂質二重膜の実験系を安定化させる努力を続け分子機構の解明を目指したい。
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