脊髄での痛覚伝達の修飾にアセチルコリンが関与している可能性について、新生ラット摘出脊髄標本を用いて検討した。 (1)脊髄・皮神経標本において皮神経の電気刺激により、また、脊髄・皮膚標本において発痛物であるカプサイシンやブラジキニンの皮膚投与により、前根の脱分極反応が起きた。これらの興奮性反応は痛覚の伝達物質候補であるタキキニンの拮抗薬により抑制されたことから、痛みに伴う運動性反射を反映していると考えられた。 (2)ムスカリン作用薬であるアレコリンやオキソトレモリンを脊髄に摘用することの興奮反応は著しく抑制され、M_2タイプのムスカリン性アセチルコリン受容体の拮抗薬であるAFーDX116により増強された。このことから、脊髄内のM_2受容性を介してPセチルコリンが痛覚を抑制することが示唆された。一方コリンエステラ-ゼ阻害薬のエドロホニウムを脊髄に摘用すると、興奮反応は増強され、M_3タイプのムスカリン性拮抗薬である4ーDAMPにより抑制された。このことからアセチルコリンはM_3受容体を介して痛覚増強にも作用していることとが示唆された。 (3)摘出脊髄を潅流して、脊髄からのアセチルコリン放出をHPLCにより測定した。タキキニン類のサブスタンスP、ニュ-ロキニンA、ニュ-ロキニンBにより脊髄からアセチルコリンが放出された。 (4)これらの結果から、末梢の痛覚刺激により、脊髄で放出されたタキキニンがコリン作動性ニュ-ロンを刺激して、放出されたアセチルコリンが痛覚伝達に対して抑制性および促進性の二種類の修飾作用をしていることが示唆された。
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