研究概要 |
タキキニン類ペプチドであるサブスタンスPとニューロキニンAは知覚神経中に含まれ,痛覚の伝達,特に長期的な伝達に重要な役割を果たしていると考えられている。タキキニンの不活性化機構の変化が痛覚伝達の長期的変化に関与している可能性がある。不活性化機構の一つとして,ペプチダーゼによる酵素的分解が考えられるので,この可能性を検討するために,新生ラット摘出脊髄標本を用いてタキキニンが関与すると考えられる神経応答に対するペプチダーゼ阻害薬の効果を調べた。脊髄標本にサブスタンスP(0.1-0.3μM)を適用して起こる前根脱分極は,ペプチダーゼ阻害薬actiononin 6μM,arphamenine B 6μM,bestatin 10μM,captopril 10μM,thiorphan 0.3μMの混合)により増大し,一方GABAやグルタミン酸による反応はこれら阻害薬で変化しなかった。 新生ラット摘出脊髄ー末梢神経標本において,皮神経である伏在神経を電気刺激すると同側の第3腰髄前根より緩徐な脱分極が記録された。この脱分極性応答はタキキニン拮抗薬で抑制されることから,タキキニンが主要な伝達物質の一つとして関与していることが分った。またnaloxone 0.5μM添加によってこの反応は増大するので,内因性オピオイド系が抑制的に働いていると考えられる。この条件下にペプチダーゼ阻害薬を加えると脱分極性応答はさらに増大した。新生ラット摘出脊髄ー末梢神経標本で伏在神経を条件刺激すると単シナプス反射が約30秒にわたって抑制され,この抑制にタキキニンおよびアセチルコリンが関与することはすでに報告したが,この単シナプス反射の抑制はペプチダーゼ阻害薬で延長した。これに対して,タキキニン拮抗薬で処理した後にはペプチダーゼ阻害薬による抑制の延長は見られなかった。以上の結果から脊髄においてペプチダーゼによる酵素的分解が神経終末から放出されるタキキニンの不活性化機構の一部を担っていることが示唆された。
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