本研究の目的は脊髄における痛覚情報伝達の特に長期的な変化に関与すると思われる内因活性物質の機能を解明することにある。特に一次求心性ニューロン中に含まれる神経ペプチドであるタキキニン類を中心にして研究を行った。1)タキキニンによる神経伝達物質の放出 タキキニン、特にサブスタンスPによるアセチルコリンやGABA、さらに他のアミニ酸伝達物質の放出について調べた。新生ラット摘出脊髄を潅流し、諸種の薬物でGABA、グルタミン酸をはじめとするアミノ酸およびアセチルコリンを放出させ潅流液中に含まれる量をHPLCで測定する実験系を確立した。 この系を用いてタキキニン刺激によるGABAとアセチルコリン放出機構について比較検討し、両者に顕著な違いがあることが分かった。2)タキキニンの不活性化機構の解明 中枢神経系におけるタキキニンの不活性機構の一つとして、ペプチダーゼによる酵素的分解が考えられる。この可能性を検討するために、新生ラット摘出脊髄標本を用いてタキキニンが関与すると考えられる神経反応に対するペプチダーゼ阻害薬の効果を調べた。脊髄標本にサブスタンスPを摘出して起こる前根脱分極は、ペプチダーゼ阻害薬混合液により増大した。摘出脊髄一末梢神経標本において、皮神経である伏在神経を電気刺激すると同側の第3腰随前根より暖徐な脱分極が記録され、この脱分極はタキキニン拮抗薬で抑制される。 ペプチダーゼ阻害薬混合液を加えると脱分極は増大した。これらの結果から脊髄においてペプチダーゼによる酵素的分解が内在性タキキニンの不活性化機構の少なくとも一部を担っていることが示唆された。
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