セファロカルシンは、最近我々がラット脳サイトソルより単離、SDS‐PAGEで30‐kDaの単一バンドにまで精製した、中枢神経系局在性と推定される新型Ca^<2+>結合蛋白である。このセファロカルシンは、 ^<45>Ca^<2+>オ-トグラフィ-で検出される脳に固有な多彩なCa^<2+>結合蛋白(〜15種)のうち最も強いスポットを与え、偏在性の既知蛋白カルモテュリンやカルビンディン(28kDa)にも概ね匹敵し、またCa^<2+>バッファ-とされるカルビンディンとは抗原性を一部共有するが、胸器・脳内分布や分子の性質から峻別される。今年度、我々は電気泳動法(native PAGE)の改良により、上記セファロカルシン標品が少なくとも三つの明確なバンドに分離される事、それらの存在比はイムノプッロティングによるラット全脳サイトソルの分析結果と良く対応するが、中枢神経系の部位によってはこれとは異なる存在比を示すことを明らかにし、セファロカルシンがin vivoで生じた幾つかの分子型から成る可能性を見出した。更に、此等分子型のうち三つをDEAEーセファセルイオン交換クロマトラフィ-で精製することに成功し、各型についての検討から、セファロカルシンの通性として、細胞内Ca^<2+>濃度に対応した高親和性Ca^<2+>結合部位・これとは別の二価金属イオン(Zn^<2+>等)結合部位・更に有機蛍光プロ-ブ結合部位を持ち、Ca^<2+>結合に伴いイオン的性質及び分子構造の大きな変化を示す事を明らかとした。以上より、本年度の成果として、中枢神経系に特有なCa^<2+>受容/調節蛋白の有力候補であるセファロカルシンの分子的多様性という興味ある事実が明らかとなり、更に本蛋白の機能解明・新規のCa^<2+>受容/調節経路とそれに与る未知の機能素子の探索に当り、この多様性を念頭に、分子の諸性質、分布様式、個体発生・生理変動・機能擾乱に伴う消長や変動を精密かつ包括的に追究する事が可能となった。
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