現在、数多くのSーアデノシルメチオニン(AdoMet)依存性メチルトランスフェラ-ゼについて一次構造が知られているが、三次構造の明らかにされたものはなく、共通の基質であるAdoMetの結合部位に関する知見も皆無である。一次構造の知られている哺乳動物メチルトランスフェラ-ゼは6種類あるが、これらの酵素は何れも二つの短い相同性を示す配列を持っている。われわれは、本研究において、AdoMet結合部位の構造を明らかにする目的で、ラット グアノジノ酢酸メチルトランスフェラ-ゼ(GAMT)とウシ フェニルエタノ-ルアミンメチルトランスフェラ-ゼ(PNMT)を選び、AdoMetによる親和標識実験を行なった。GAMTを[メチルー ^3H]AdoMet存在下に紫外線照射を行なうと、放射活性の酵素タンパクへの取込みが認められた。この取込みは基質と酵素との共有給合によるものであり、1時間にわたり直線的に進行した。AdoMet濃度と放射能取込み速度の関係から求めたAdoMetの解離定数は平衡透析法によって得られた値と一致した。また、AdoMetに対する競争阻害剤であるSーアデノシルホモシステインおよびシネファンジンは低濃度で放射能取込みを阻害した。これらの結果はAdoMetが活性中心標識試薬として作用していることを示している。次に、AdoMet結合部位を同定するために、[メチルー ^3H]AdoMetで標識された酵素のキモトリプシン分解によって得られた放射性ペプチドのアミノ酸配列を決定した。その結果このペプチドはGAMTのアミノ酸134ー143に相当し、AdoMetはTyrー136に結合していることが明らかになった。PNMTについても同様の実験を行ない、AdoMetによって修飾される残基はPNMTのアミノ酸162ー196に含まれていることが明らかになった。AdoMetによる修飾部位は両酵素ともCー末端側の共通配列の直前に存在し、この共通配列部位が活性中心の形成に何らかの関与をしているものと思われる。
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