1.視交叉上核(SCN)におけるc-Fosの発現。12時間毎の明暗周期下に飼育する健常対照動物(ラット)においては体内時計の同調に関与する網膜からの神経連絡が到達するSCNの腹外側部で、c-Fosには明期開始前に最低値を暗期開始前に最高値を示す日周変動が認められたが、これと同様の変動は眼球摘出盲目動物では認められなかった。高血糖を引き起こす2DGを脳内及び腹腔内に投与するとSCNにc-Fosの発現が認められた。このc-Fosの発現は細胞核に限局していたが、バゾプレッシン(VP)陽性神経細胞との共存は認められなかった。2DGの投与によりSCNの他に、室傍核(PVN)、視索上核(SON)や室周囲核などの視床下部諸核にc-Fosの発現が認められた。低血糖をもたらすインスリンの腹腔内投与はSCNの前方では腹側に後方では外側にc-Fosの発現が認められた。血糖調節能に異常のある先天的及び後天的盲目動物でこれらの健常動物でのc-Fosの発現が認められるか否かについて現在検討中である。2.先天的盲目動物でのc-Fos発現。エネルギー代謝調節とc-Fosの関連を検討する過程で筆者らは24時間脱水時に認められるVP分泌増加の指標となる、PVN及びSONのc-Fos発現に関して検討してみた。その結果、24時間脱水時には健常動物では、PVN及びSONのバゾプレッシン陽性細胞にc-FOSの発現が認められたが、先天的盲目動物である遺伝性小眼球症ラットでは24時間脱水後の血中バゾプレッシン濃度の上昇反応の消失と平行してPVN及びSONのバゾプレッシン陽性細胞でのc-Fosの発現反応もまた認められなかった。この遺伝性小眼球症ラットはSCNの形態が異常であることから、以上の事実はSCNが体内時計やエネルギー代謝調節以外に体水分量の調節に関与することを示唆している。SCNには更にJunBやFynが存在した。
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