カルシウム依存性中性プロテア-ゼ(以下、カルパインと呼ぶ)は細胞内酵素であるうえ、細胞の重要な調節因子であるCa^<2+>によって活性が制御されていることから、その生理的役割は大変興味深い。カルパインはこれまでの研究から、細胞の分裂や分化あるいは細胞膜の融合を伴う生体反応(精子と卵子の融合、筋芽細胞の融合による筋管細胞の形成、エンドサイト-シス及びエクソサイト-シス等)など、細胞機能の重要な過程に関与することが示唆されている。そこで本研究では、特に人為的操作を加えることなく細胞の分化・融合が観察できる筋芽細胞の培養系を用い、カルパインの生理機能の解析を試みた。 まず、筋芽細胞株を購入して培養系を確立することから実験を開始した。しかし、入手した細胞株は融合能が非常に低く本実験には使用不可能であった(血清の種類や濃度並びにインシュリン等の効果も検討したが殆ど改善されなかった)。そこで、再クロ-ニングを行い60%〜70%の融合能を有する数種のクロ-ンを得た。 筋芽細胞の分化・融合時のカルパインの役割を探る第一歩として、種々のプロテア-ゼインヒビタ-影響を調べてみた。その結果、我々の研究室で開発した細胞膜透過性で且つカルパインの強力な阻害剤であるbenzyloxycarbonylーleucylーlencylーleucineーaldehybe(ZLLLal)が最も低い濃度(200nM)で筋芽細胞の融合、即ち筋管細胞の形成を阻害した。また、既に市販されているEー64dやカルペプチン(何れも細胞膜透過性と言われている)にも弱い阻害効果が認められたがかなり高濃度(10μM)を必要とした。一方、膜透過性が無いと言われているEー64cやロイペプチンには阻害が認められなかった。筋芽細胞から筋管細胞の形成に至る過程のカルパインの挙動を調べたところ、筋芽細胞の融合に伴ってμー及びmーカルパイン量の著しい増加が認められた。活性型カルパインやカルパスタチンの動きについては現在解析中である。 以上の結果から、カルパインは筋芽細胞の分化・融合に際し重要な役割を担っていることが強く示唆された。
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