ラット肝化学発癌過程で生じる過形成結節及び肝癌において、胎盤型グルタチオンSートランスフェラ-ゼ(GSTーP)遺伝子の発現が著明に上昇する。この変化は肝臓において特異的であり、さらに正常肝では全く発現していないため、すぐれた腫瘍マ-カ-の一つであるとともに、発癌のメカニズムを解明するための最も良い材料の一つと考えられる。代表者らは、分子生物学的な面からアプロ-チするため、GSTーP遺伝子の解析を行ってきた。その結果、GSTーP遺伝子の5'上流領域には、遺伝子発現の活性に正に働くエンハンサ-と負に働くサイレンサ-が複数存在することが明らかとなった。本年度は、これに一連の解析をさらに押し進めエンハンサ-とサイレンサ-の機能を詳細に検討することを目的とした。その結果、以下のことを明らかにした。 1。GPE1エンハンサ-について、プロトオンコジ-ンjun/fos(AP1)の関与を検討した結果、その関与が確認された。即ち、アンチセンスのjunまたはfosの発現ベクタ-を用いることにより、GPE1の活性は一部低下した。しかし、AP1活性を欠くといわれるF9細胞においては、低下しなかった。これらの結果はAP1以外の関与を示唆している。そこで、ゲルシフト法等を用いてF9細胞核抽出液中のGPE1結合タンパク質を検索したところ新たな核タンパク質の存在が明らかとなった。 2。サイレンサ-については、SFーA(Silencer Factor A)のDNAアフィニティ-カラムによる部分精製を行いSFーAはサイレンサ-中の数カ所に結合することを見いだした。SFーBについてはそのクロ-ニングに成功した。興味深いことにSFーBは転写活性化因子として同定されたLAP/IL6ーDBPと同じかまたは類似のクロ-ンである可能性が示唆された。一つまたは類似のタンパク質が正負両方の機能をもつとすれば非常に重要でありその解析は今後の課題である。
|