本研究の目的はラウス肉腫ウイルス癌遺伝子産物p60^<vーsro>による細胞癌化をとりわけ形態、細胞骨格構成の制御機構を、その標的蛋白質の生化学的研究を通じ解析することを目的としている。本年度は、細胞骨格構成と細胞間認識に重要な役割をはたすカドヘリンに注目して実験を行った。研究成果の主要な点は以下のとうりである。 1)RSV癌化細胞では正常細胞に比べ多量のカドヘリンが合成されているにも拘らず、カドヘリン依存性の細胞凝集能は著明に低下していた。 2)抗カドヘリン抗体と、抗ホスフォチロシン抗体を用いて解析すると、RSV癌化細胞では、カドヘリン及びカドヘリン結合タンパク質(カテニン)が、チロシンのリン酸化を受けていた。 3)チロシンキナ-ゼは活性だが、癌化能をうしなったsrc変異株を用いて同様の実験を行うと、カドヘリンおよびカテニンのリン酸化は認められなかった。 4)RSVの温度感受性変異株とtsNY68を感染させた細胞を用いて同様の実験を行うと、細胞凝集の抑制と、カドヘリン・カテニン複合体のリン酸化は温度依存性であった。 5)SRCによる細胞癌化を著明に抑制することが知られているハ-ビマイシンの作用を調べた。癌化細胞をハ-ビマイシンで処理すると、細胞の形態、凝集能が正常化し、カドヘリン・カテニンのリン酸化が消失した。 6)更に、我々は人胃ガン由来細胞株の中に高チロシンリン酸化型のものが数種あることを見いだしている。この中に、カドヘリン・カテニンのリン酸化と、adherens junction構造の消失がみられるものが見つかった。 以上のの結果から、カドヘリン・カテニンのリン酸化とカドヘリン依存性の細胞凝集能の抑制は、癌化に直結した現象と結論された。 更に、この現象は、自然発生の人癌でも生じているものであると結論された。
|