srcによる細胞癌化を劇的に阻害するハービマイシンの作用を解析し以下の結果を得た。 (1)低濃度のハービマイシンは、p60v-srcの合成、ミリスチン酸添加反応、細胞膜への結合を抑制しないにもかかわらず、細胞の形態を正常化した。 (2)この時、p60v-srcのキナーゼ活性は充分量保たれており、大半の標的蛋白質はリン酸化を受けたままであった。 (3)p60v-srcの細胞内局在を調べてみると、細胞膜との結合は阻害されないが、細胞骨格との結合が著明に抑制されていた。 (4)p60v-srcに結合したphosphatidylinositol 3 Kinase(PI3キナーゼ)の活性を調べると、ハービマイシン処理によりp60v-srcとの結合が阻害されていることを見いだした。 以上の結果から、p60v-srcの細胞骨格との結合、PI3キナーゼとの結合は形態変化に重要な役割を果たすと考えられる。 研究開始当初、標的蛋白質の抗体作製を試みていたが、あまり有意の結果を得ていない。これはひとつにリン酸化蛋白のどれが形態変化に必須であるか決定的な証左が得られていなかったためである。しかし我々のハービマイシンの実験から、大半のそれは形態変化に必須でないこと、p60v-srcの細胞骨格への結合は形態変化に必要であること、形態変化に強い相関性を示す標的蛋白質があることが明きらかになった。今後これら標的蛋白質の解析を進めたい。
|