研究概要 |
LECラットは何らかの遺伝的な代謝異常をきたし、生後3〜4カ月でヒト劇症肝炎に類似した黄疸を伴った症状を呈し死亡する。これまでにLECラットにおける薬物代謝系の酵素偏倚がコリン欠乏食投与時のそれと類似していることから,本ラットはメチオニン代謝系に何らかの異常が存在すると思われる。そこで,肝におけるメチル化のドナ-であるSーアデノシルメチオニン合成酵素の発現と肝等肝癌発症との関連性について検討した。肝Sーアデノシルメチオニン合成酵素のmRNA量は,ラット肝臓型酵素のcDNAおよび抗体を用いて半定量し,活性は生成物をHPLCにて測定した。対照のLEAラットのSーアデノシルメチオニン合成酵素の蛋白量は,生後から加齢とともに漸増するのに比し,LECラットのSーアデノシルメチオニン合成酵素の蛋白量は,生後8週以後急減し,肝炎肝癌発症時も引き続いて低値のままであった。Sーアデノシルメチオニン合成酵素活性は,mRNA量や蛋白量の変化ほど大きな差異は見られなかったが,癌化の進行につれて低下しほぼ半減した。以上の結果より,Sーアデノシルメチオニン合成酵素は肝炎発症に先行して低下しており,肝細胞内のDNAや種々の蛋白質へのメチル化を抑制する結果、肝炎肝癌の発症が引きおこされるものと考えられる。次にLECラット肝よりコラゲナ-ゼ潅流法,パ-コ-ル不連続密度勾配法で単離肝細胞を分画し,細胞の大きさとGSTーP蛋白量を測定した結果,40/60%分画に最も強く発現しており,また癌部は非癌部に比し約4.4板強く発現していた。以上の結果,巨大肝細胞の出現と肝炎発症とはよく相関しており,GSTーP蛋白は,前癌病変と考えられるやや小さい細胞に強く発現されており,発癌過程では,これらの二つの異なる細胞集団が混在していると考えられる。
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