研究概要 |
我々は、LECラットの自然発癌過程における薬物代謝酵素の発現と科学発癌過程におけるそれとの相違を比較することにより発症のメカニズムを明らかにしようとしてきた。現在までに、LECラットの肝薬物代謝系酵素は、化学発癌過程で見られる前癌病変での酵素偏倚と極めて類似していることから、生化学的にもLECラットは肝癌の素因を生まれながらに有していることが明らかになった(Carcinogenesis,9,1569-1572,1988)。LECラットにおけるP-450発現量は分子種により挙動を異にしており、特にMC型分子種の増大が癌化の素因の一つと考えられた(Carcinogenesis,10,2155-2159,1989)。また、γ-GTPの遺伝子レベルでの発現を見ると、4週齢で発現上昇、8週齢で発現低下、そして16週齢で発現上昇という二相性のパターンを示した。 更に、今回、これらの遺伝子の発現はDNAメチルトランスフェラーゼの遺伝子発現パターンとよく一致しており,LECラットの発癌機構にDNAのメチル化が強く関与していると思われた。実際、肝炎肝癌発症時には肝DNAのメチル化の程度は有意に低下しており、5-アザシチジンに対する感受性は対照(LEA)ラットよりも高かった(Biochem.Int.23,9-14,1991)。次にコリン欠乏食やメチオニン代謝阻害剤投与による肝炎の発症の影響を検討したところ、早期に肝炎を誘発でき、また酵素の発現も自然発症時と類似したパターンを示した(Jpn.J.Cancer Res.82,390-396,1991).以上の結果より、肝薬物代謝酵素の変動は、低メチル化による遺伝子発現異常によると思われた。また、肝炎肝癌自然発症は、メチオニン代謝障害による低メチル化と深く関連していることが示唆された.LECラットにおいて、肝炎は発症よりもかなり以前にすでに低メチル化が進行しており、これが肝炎肝癌発症の原因の一つと考えられた。
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