吾々がこゝ10年余をかけて開発してきたラットは、ある種の発癌剤の発癌作用、xenobioticsの組織傷害作用に対して著しい抵抗性を持っている。平成5年3月現在、最初の雌雄一対から数えて40代に近付いている。この間えられた44系統をさらに選別し、最終的に4系統として維持しているが、この1年でSPF化することができた。これらはいずれも、肝発癌剤を投与した時の肝γ-glutamyltransferase(GGT)被誘導能が低い特徴を保持していた。この変異ラット(以下Rラットと呼ぶ)の肝臓で、脂質の過酸化が、親株であるDonnyu系ラット(以下Sラットと呼ぶ)に比べて抑制されていることが、低いGGT誘導、組織傷害耐性、発癌耐性の背後にあると考えられる。本年度は、特に、肝可溶性画分に局在するアルコール脱水素酵素(ADH)が毒性の高いaldehydeを還元解毒する作用を通して、組織防御作用の一翼を担っている可能性を検討した。(1)ラット肝可溶性画分には、acetaldehyde、脂質過酸化産物であるmalondialdehyde、4-hydroxy-2-nonenalの還元、ethanol、n-octanolの酸化を触媒する活性が局在するが、何れをとってもR標品はSの約2倍の活性を示した。(2)ADHアイソザイムの分析の結果、両群ラットの差に寄与しているのは、主としてclassI酵素であることが判明した。(3)ラットを肝発癌剤3'-methyl-4-dimethylaminoago-benzene(3′-MeDAB)0.06%含有食で〜8週間飼育すると、肝ADH活性の著しい増加がみられるが、依然R>Sであり、これがSラットにみられる脂質過酸化の亢進と、Rラットでの抑制に対応していた。(4)in vitroで可溶性画分を小胞体に添加すると、小胞体の脂質過酸化が抑制されるが、この効果は、S小胞体とR可溶性画分の組合せで最も顕著であった。その際、さらにpyrazoleや4-methylpyrazoleを共存させると、過酸化抑制の部分的解除がみられた。これらの観察は、classIADHが脂質過酸化抑制に関与し、Rラットの「耐性」に寄与していることを強く示唆している。
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