研究概要 |
本年度は,学習や記憶などの高次神経機能に関与するとされる,コリン作動性神経終末のマーカーの一つであるアセチルコリンの合成酵素のコリンアセチルトランスフェラーゼ(ChAT)の脳内の活性について,老化に伴う変化を検索した.なお,ChAT活性は,大脳皮質および海馬を0.1% Triton X-100(pH 7.4)で磨細した懸濁液を用いて測定した. Fischer 344系雄性の29ヶ月齢ラットにおける大脳皮質および海馬のChAT活性は,7および2ヶ月齢ラットとの間に大きな差はなく,老化によって活性値が変化しないことが示された.このことから,少なくとも大脳皮質および海馬のコリン作動性神経系のシナプス前細胞のアセチルコリン合成能は,老化に伴って低下することはなく,コリン作動性神経系の機能障害は少ないことが示された,しかしながら,ChATはシナプス前細胞のマーカーであることから,シナプス後細胞のマーカーのアセチルコリン受容体の老化に伴う変化を,今後検索しなければならないことが示唆された。 29ヶ月の老齢ラットの学習能力,特に空間認知の機能を検索するために,0ltonら の高架式八方向放射状迷路学習を試行し,若齢ラット(3ヶ月齢)の学習能力と比較検討した.若齢ラットが学習テストの試行をかさねるにつれ,正反応率の上昇および誤反応率の低下を示し学習成績の向上が見られたが,老齢ラットではこれらの学習成績が若齢ラットに比べて有意に劣り,空間認知が著しく障害されることが示された.昨年度の実験では,空間記憶に強く関与するとされるグルタミン酸レセプター,特にNMDAレセプターの老化に伴う著しい低下を報告したが,このNMDAレセプターの低下が,老齢ラットの空間認知障害の物質的な背景の一つの可能性が示唆された.
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