研究概要 |
細胞膜を介したイオンの動きは様々な細胞活動を調節している。このようなイオンの動きは全てそれぞれに特異的な膜蛋白質によって媒介されている。しかしながら、その媒介輸送の分子機構についてはほとんど解かっていない。このような膜での透過機構の解明を目指して、赤血球膜の陰イオン透過系の透過機構を蛋白質の構造と透過機能との関連から明らかにしようと言うのが本研究の目的である。 赤血球膜の陰イオン透過系は、生理的には、塩素イオン(CI^-)と重炭酸イオン(HCO_3^ー)との交換反応を行なっており、赤血球による組織への酸素の供給と炭酸ガスの組織からの排出に深く関与している。同時に、細胞膜を介した塩素イオン(Cl^-)と重炭酸イオン(HCO_3^-)の動きで細胞内のpHを調節している。このほかに細胞の栄養素である燐酸イオンの取り込みもこの透過系で行なわれており、赤血球膜を横切る陰イオンの動きは、殆ど、この系によって媒介されている。赤血球膜の陰イオン透過系は反応速度論的にも蛋白質化学的にも最もよく研究されているイオン透過系の一つである。我々は、数年来、この赤血球膜陰イオン透過系をモデル材料として用いて、細胞膜の物質透過の分子機構解明を目指して研究を続けている。特に、透過活性中心や透過に必須のアミノ酸残基の同定、その周辺の構造、さらに、透過に伴う高次構造の変化の研究などに焦点を絞って研究を行なってきた。今日までに我々は陰イオン透過活性中心の選択的な標識とその部位の同定、精製および一次構造の決定を行ない公表してきている。[J.Biol.Chem.258,5985(1983);J.Biol.Chem.258,15381(1983);Eur.J.Biochem.132,531(1983);J.Biochem.100,191(1986);J.Biol.Chem.263,8232(1988)]。本研究はその延長線上にある研究である。 本研究期間では以下に列挙することを明らかにすることが出来た。 1)陰イオン透過活性中心の選択的な標識部位"8.5K-Peptide"領域の一次構造解析ならびにシステイン残基のアシル化 2)陰イオン透過活性発現に必須のヒスチジン残基および陰イオン透過過程における構造変化 3)陰イオン透過系によるホスホエノールピルピン酸の媒介輸送およびその臨床応用 4)バンド3蛋白質の構造異常と溶血性貧血 以上が本研究期間での我々の主な成果である。今後ともこの様な蛋白質化学的な方向で研究を進め陰イオン透過機構の分子機構を明らかにして行きたい。
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