研究概要 |
本年度は、胸腺腫のサイトケラチンパターンの解析と胸腺腫、胸腺癌における癌抑制遺伝子の検索を重点的に行った。 まず、正常胸腺および胸腺腫の超低温凍結標本をNos.1,3,4,7,8,10,13,14,18,19の10種類のモノクローナル抗サイトケラチン抗体で免疫組織化学的に染色した。正常胸腺では被膜下上皮がCK7,14,19陽性、皮質上皮がCK8,19陽性、髄質上皮はCK13,14,19陽性、ハッサル小体はCK14以外全てが陽性であった。ただし、髄質上皮では皮髄境界域と他の領域とに染色性の差を認めた。胸腺腫9例中、3例は皮質上皮、2例は髄質上皮、別の2例はハッサル小体に対応する染色パターンを示し、残りの2例は単一上皮の染色性に合致せず、混合型と考えられた。また、被膜下上皮型に該当する例はみられなかった。以上の結果から、胸腺上皮は部位によりサイトケラチン発現パターンが異なり、胸腺腫サイトケラチンの対応するパターンで腫瘍の細分類が可能であることが分かった。 次に、癌抑制遺伝子p53について、その産生蛋白の核内異常発現を免疫組織化学的に検索した。パラフィンブロック標本にて、異常p53蛋白は胸腺癌の全例に陽性であったが、胸腺腫ではほとんどの例で陰性であった。そこで、凍結標本よりDNAを抽出し、直接シークエンス法でp53遺伝子の解析を試み、現在までに少数例についての検索が終わっている。その結果、免疫染色で証明される核内蛋白と遺伝子自体の異常が必ずしも一致しない例のあることが分かった。これについては、さらに例数を増して検討を進めている。一方、パラフィンブロック標本からもDNAを抽出し、p53遺伝子をPCR法で増幅し、一本鎖DNA高次構造多形解析(SSCP)法で点突然変異の有無を検索している。免疫染色については凍結切片およびアルコール固定標本でも順調に結果が出され、臨床病理学的に有用で簡便な方法が確立されつつある。
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