研究概要 |
腸管寄生蠕虫Nippostrongylus brasiliensis(Nb)が宿主の免疫機構により小腸から排除される時期に一致して粘膜上皮杯細胞数の増加と活発な粘液放出が見られる。ペルオキシダ-ゼ標識レクチンを用いた組織化学的検索によりこのときに産生・放出される粘液は非感染時の粘液とは異り、GalNAc,GlcNAc,Sialic Acidを糖鎖末端に持っていることが明らかになった。このような杯細胞の数の変化や粘液の糖鎖構造の変化が免疫系の調節を受けているかどうかを調べるために、Nb感染ラットの小腸から虫体を感染9日目(NormalWorm)および13日目(Damaged Worm)に取り出し正常及び免疫ラット小腸内に移入し、その後の小腸杯細胞の変化を組織化学的に検索した。 Normal Wormを正常ラットに移入した場合には約1週間定着した後に排除がおこるのに対し免疫ラットに移入した場合には直ちに排虫が始まり5日目までに完全に排除された。またDamaged Wormを正常ラットに移入した場合にも移入後すぐに排虫がおこった。いずれの場合にも排虫時期に一致して小腸杯細胞の粘液はGalNAc,GlcNac,Sialic Acidを糖鎖末端に強く発現するようになった。これらの結果は杯細胞粘液の糖鎖末端の変化が免疫応答によって調節を受けていることを強く示唆している。同様の虫体移入実験をマウスをレシピエントにして行なってみるとNormal Worm,Damaged Wormいずれも移入後直ちに排除された。組織化学的マウス小腸杯細胞は正常でも既にGalNAc,GlcNAc,Sialic Acidを糖鎖末端に強く発現しているので、先の結果と合わせて考えると杯細胞から放出される粘液の糖鎖末端構造が虫体の定着を規定していると思われる。Nb虫体表面にはGalNac,GlcNAcが強く発現されているので、もし虫体や宿主からGalNAc,GlcNAcを認識するdivalentあるいはpolyvalentな物質が分泌・放出されるならばそれによって粘液と虫体とのあいだに強固な結合が形成されmucus trappingがおこると推定される。今後この物質を追及することにより排除のmechanismが物質レベルで明らかになると考えられる。
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