研究概要 |
本年度の研究計画として1.回虫成虫筋ミトコンドリアの嫌気的フマル酸呼吸系の末端酵素として機能するComplex IIサブユニット(Fp,Ip,CybL,Cybs)の蛋白化学・免疫化学的解析、2.成虫とは異なり、好気的呼吸を行なう回虫幼虫呼吸鎖の分光学・酵素学的解析を立案した。以下に概要を述べる。1.については分子量がFpについで大きく補欠分子族として3種の異なる鉄ーイオウクラウスタ-(Sー1,Sー2およびSー3)を含む分子量26KDaのironーsulfurサブユニット(Ip)のN末端,Sー1とSー3クラスタ-結合部位およびSー1とSー2結合部位の間の領域のアミノ酸配列を決定した。1)IpサブユニットのN末端付近はスレオニン,アラニンに富み,酵母,ヒト肝臓,牛心筋の真核生物由来のIpと高い一次構造上の相同性がみられた。2)鉄ーイオウクラスタ-の結合に必須なシステイン残基を4ーvinylpyーridineで特異的に化学修飾して得たSー1およびSー3クラスタ-結合部位のアミノ酸配列はN末端同様,好気的代謝を行なっている真核生物のIpと高い相同性を示した。3)得られた配列を荘菌のFRD(フマル配還元酵素)とSDH(コハク酸ーユビキノン酸化還元酵素)と比較した結果,回虫(Complex II.は高いフマル酸還元活性をもつにもかかわらず,その一次構造はSDHにより似ているという,寄生現象の成立,酵素の起源,進化を考察するうえで非常に興味深い知見が得られた。2.については,二期幼虫ミトコンドリアの呼吸鎖はシトクロムオキシダ-ゼとユビキノを含むきわめて好気的なものであることが明らかになった。ユビキノンを主要成分として含むという知見ははじめてのものであり,好気ー嫌気の呼吸転換機構にキノンの代謝転換が関与していることを示す重要な知見である。以上の様に計画はほぼ達成されているが,二期幼虫から三,四期へ発育する過程での呼吸酵素の変動については現在解析中である。
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