研究概要 |
本研究の2年間の計画として1.回虫成虫複合体IIサブユニットの蛋白化学・免疫化学的解析2.回虫幼虫呼吸鎖の分光学・酵素学的解析3.回虫とは棲息環境の異なる肺吸虫ミトコンドリア呼吸鎖の解析4.回虫幼虫および肺吸虫ミトコンドリアの電顕的解析、の4項目を立案した。このうち4を除いては研究がほぼ完了している。それぞれの成果の概要を以下に述べる。1.複合体IIのサブユニットのうちIpサブユニットを中心に解析を行ない、N末端およびトリプシン分解産物の一次構造を決定した。得られたアミノ酸配列は真核生物由来のIpと高い一次構造上のhomologyがみられ、また大腸菌のコハク酸脱水素酵素(SDH)とフマル酸還元酵素(FRD)の一次構造と比較するといづれもSDHにより似た傾向がみられた。これは回虫複合体IIは高いFRD活性をもつにもかかわらず一次構造上はSDHにより似ていることを示しており本酵素の起源進化を考えるうえで重要な知見である(Jpn.J.Parasitol.(1992)41 122-131)。2.回虫2期幼虫ミトコンドリアの呼吸鎖は解析の結果、成虫と異なりシトクロムオキシダーゼとユビキノンを含むきわめて好気的なものであり、また、2期幼虫をin vitro培養して3,4期へと発育させるとフマル酸還元活性が上昇し成虫の嫌気的呼吸鎖へ移行することが定量的に明らかになった(Biochim.Biophys.Acta(1993)1141 65-74)。3.肺組織中に虫嚢を形成して寄生する肺吸虫のミトコンドリアは、コハク酸酸化系とフマル酸還元系、すなわち好気と嫌気の呼吸系をあわせもつ条件嫌気的性質を有することを、はじめて定量的に明らかにした(投稿準備中)。以上の成果は寄生蠕虫にみられるエネルギー代謝の宿主還境への適応動態をミトコンドリアおよび物質レベルで明らかにしただけでなく、呼吸鎖の適応・進化を考察する上で非常に重要な意義を有するものである。残された課題4の達成と遺伝子レベルでの制御機構解析に向けて現在さらに研究を続行中である。
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