ビブリオ属菌には海水を本来の生息域としているものが多いが、非好塩性のため淡水域に生息しているものもあり、淡水産の水産物や飲料水による感染にも注意が必要である。非好塩性ビブリオの内わが国に常在するVibrio cholerae non-01(ナグビブリオ)とV・mimicusについて病原因子の検討を行った。数年間に渡り河川、池、湖沼での生態調査を行って多くの分離株を得ているので、これらの株についてウサギ結紮腸管ループテストなどの系を用いて病原性の評価を行い、かなりの環境分離株が病原性を持つことを示した。V.mimicusの株の中にはウサギ結紮腸管ループテストで陽性を示すが、コレラ毒素や大腸菌耐熱性下痢毒に類似した毒素を産生しない株があるので、このような株の病原因子について検討した。まず、下痢因子の可能性のある溶血毒素(VMH)について作用機構の検討を行った。VMHは浸透圧性の溶血を示したが、同様に浸透圧性の溶血作用を示す他のビブリオの溶血毒素とは若干異なった性状を示した。またVMHの膜への結合部位はガングリオシドと考えられるが、ガングリオシドのオリゴ糖部分、特に還元末端のガラクトースならびにこの糖と結合する1個のシアル酸の存在が重要であることが示された。一方、プロテアーゼの皮膚血管透過性亢進作用や血球凝集活性を前年度に示したが、これ以外に高分子の血球凝集因子(VMHA-2)の存在を見いだした。VMHA-2は単独でウサギおよびマウスの赤血球を凝集させるが、ニワトリ赤血球の凝集にはプロテアーゼの補助作用を必要とした。菌の腸管内定着におけるVMHA-2の関与については現在検討中である。さらに、ガングリオシド結合-酵素免疫測定法を生態調査に応用した病原性のナグビブリオの分布調査と種々のパラメーターとの相関性の検討などを行い、これら非好塩性病原ビブリオの食品衛生に対する影響を考察する上での情報を得ることができた。
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