研究概要 |
毎年、開発途上国を中心に500万人の乳幼児が下痢症により死亡している。その原因菌として毒素原性大腸菌は20%を占めている。本菌の下痢原因物質として易熱性エンテロトキシン(LT)が挙げられる。LTはコレラ毒素(CT)と構造及び下痢発現機構が似ていると考えられている。従って両毒素の下痢機構の解析及びワクチン開発が急務とされている。 そこで我々は今回LTのAサブユニットの内、ニックに関与する部位を人工的に置換することにより、ニックの活性発現に対する機能を調べるために本研究を企画した。その結果、Aサブユニットにニックが入ることにより、ARF(ADPリボシル化因子)との相互作用をAサブユニットが持つことが明らかになった。しかも、ARFはアロステリック効果によりCT,LTのAサブユニット活性に相乗的に働くことが明らかになった。またARFの細胞上どの部位に存在しているか未だに定かではないが、少なくとも細胞膜の内側より内部に存在していると考えられている。従ってAIフラグメントはARFと相互作用するためには細胞膜内部に入る必要がある。そこでニックの重要性について調べてみた。一般に両毒素はトリプシン様蛋白分解酵素で切断されると考えられている。Arg192、メタロプロテアーゼの切断部位と考えられているSer194が存在している。そこでこれら各々をGly192 Leu194と変換してみた。その結果Ser194-LT-Leu194は正常LTとPF活性の変化がないのに対し、Arg192-LT-Gly192は正常LTに比べ、生物活性に変化が見られた。これはAサブユニットのニックはAIフラグメントがアデニル酸シクラーゼのGTP結合蛋白に達する際、重要であると示すと共に、Arg192のニックがSer194のニックに比べて重要な働きをしていることを示している。以上のことからAサブユニットにニックが入ることにより、ARFとの相互作用が発揮されること、Arg192の切断がSer194の切断に比べ、PF活性発現、とくにAIフラグメントのGTP結合蛋白への到達に重要であると考えられる。
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