研究概要 |
ヒトレトロウイルス(HTLVーI)は生体に感染して成人T細胞白血病(ATL)ならびにHTLVーI関連脊髄症(HAM)を引き起こす。ATL発症はHTLVーIの転写活性化因子p40^<tax>による宿主細胞遺伝子の発現の変調と深く係わっていると考えられている。しかし、HAMにおいてはその発症の分子基盤はほとんど不明である。我々はp40^<tax>により活性化される新たな細胞側分子(膜糖蛋白gp34)を同定し、遺伝子のクロ-ニングに成功した。gp34発現はHTLVーI感染リンパ球系細胞株において認められるが、正常リンパ球や種々のHTLVーI非感染細胞株においては認められなかった。しかし、グリオブラスト-マ、ニュ-ロブラスト-マの株化細胞の中にHTLVーIの感染にかかわりなくgp34を発現している細胞株が認められた。そこで、正常組織でのgp34発現を検索するとともに、HTLVーI感染HAM患者のgp34の発現調節機構を解析した。種々の株化細胞のgp34の発現を調べたところ、グリオマ由来Hs683,A172ニュ-ロブラスト-マ由来SKーNーSH、肺線維芽細胞株W238に発現が認められた。さらに感度よくgp34を検出するため、PCR法にて検索した。ランダムプライマ-でcDNAを合成し、これを鋳型としてgp34特異的なプライマ-の組み合わせを用いPCRを行った。その結果、調べた肺、腎臓、脾臓、肝臓、脳、精巣のうち、肺と精巣でgp34の発現が認められた。gp34遺伝子の発現調節領域をクロ-ニングし、そのp40^<tax>に対する反応領域を検索した。p40^<tax>に対する反応性は、RNA開始点から54塩基上流の40塩基対の領域にみられた。その中には、κB因子結合配列に似た2つの配列があり、その中の一つはp40^<tax>に反応した。この領域にはNFーκB様因子が結合し得ることも確認した。このように、gp34はκB結合配列をもつが、p40^<tax>以外のκB結合配列活性化刺激ではこの遺伝子は活性化されず、上記領域より上流に転写を抑制している領域があるものと思われる。
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