マウスアデノウイルス(MAV)K87株は腸管に感染し、通常マウスでは腸管局所のIgAクラスに属する中和抗体によるウイルス抵抗性によって感染3週目には糞便よりウイルスは消失する。一方、先天的に胸腺を欠くヌ-ドマウスでは感染6週目頃に中和抗体・インタ-フェロン、ナチュラルキラ-活性等は関与しないが、サイクロフォスファマイドによって完全に消失する抵抗性が生ずる。このような免疫不全動物が示すウイルス抵抗性因子を探る目的で機能的なT・B細胞を欠損するSCID(重症複合免疫不全症)マウスにMAV感染を試みた。7〜8週齢CB17ーSCIDマウス10匹にMAVK87株を経口投与し、糞便中のウイルス検索を行なったところ、いずれの週の糞便中にもウイルスが検出されなかった。通常マウスにおいても若マウスの方がMAV腸管感染率が高い事より、4週齢SCIDマウスにMAVを経口投与した結果、90%のマウスに2週目までに腸管染が成立した。その後、毎週糞便中のウイルス検索を行なったところ、通常マウスが示す抵抗性のように感染3週目には既にウイルスが検出されない例(2/9例)4〜5週目でウイルスが消失する例(3/9例)6〜7週目で一旦ウイルスが消失し、その後弱いながらウイルスが検出され再び消えるというヌ-ドマウスのMAV感染と類似の抵抗性を示す例(3/9例)等がみられた。MAV感染に12週目まで観察したが抵抗性を示さず完全な持続感染例はなかった。早期にウイルスが消失した例についてはリ-キ-マウスの可能性も考えられるので、現在免疫グロブリンをチェックしたSCIDマウスで実験を進めている。現在のところ、ヌ-ドマウスにおけるMAV抵抗性因子として、検出不可能な微量の中和抗体の存在や非感染ヌ-ドマウスにおける高IgG値の関与を推察しているが、SCIDマウスにみられる抵抗性追求を継続する事によって、この点を解明するヒントとしたい。
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