1.ポリオウイルスの標的細胞の同定 ポリオウイルスレセプタ-(PVR)トランスジェニックマウスに経口、静脈内、腹腔内、脳内の接種経路によってポリオウイルスを感染させた。発症したマウスについて病変の有無の観察、抗ポリオウイルス抗体によるウイルス抗原の検出、in situハイブリダイゼ-ションによるウイルスゲノムの検出を行った。どの経路によっても脳幹、脊髄の神経細胞にウイルスの感染が認められた。また経口感染の場合、腸管のリンパ組織に病変が認められた。 2.PVRの個体内での分布 PVRを免疫グロブリンFc部分との融合タンパク質として発現、精製し、これを抗原として8種類のモノクロ-ン抗体を得た。これらの抗体を用いてヒト、ならびにPVRトランジェニックマウスでのPVRタンパク質の分布を調べたが、明かな結果は得られなかった。また、PVRmRNAのPVRトランスジェニックマウス個体における発現を、ノ-ザンハイブリダイゼ-ション法で調べた。PVRmRNAはノ-ザン法により、脳、脊髄で高レベルの、腎臓で中レベルの、その他のほとなどの組織において低いレベルの発現が見られた。in situハイブリダイゼ-ション法により更に詳しくPVRmRNAの分布を調べたところ、ウイルスの標的になるる脳(特に脳幹部)、脊髄の神経細胞に特異的な発現が認められ、標的ではないグリア細胞には発現は認められなかった。また小腸絨毛の上皮細胞にもmRNAの発現が認められた。その他の組織において、我々の用いた方法では発現は認められなかった。 3.ポリオウイルスの臓器向性とレセプタ-の発現 以上の事柄から、レセプタ-を発現している事がウイルスの標的となるためには必要条件である事が示された。レセプタ-を発現しているすべての細胞がウイルスの標的となり得るか、すなわちレセプタ-のみがウイルスの感受性を支配しているか否かは、抗体によるPVR蛋白の検出、in situハイブリダイゼ-ションによるPVRmRNAの検出感度を上げてPVRの組織内での分布をより詳細に調べて検討する必要がある。
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