研究概要 |
内因性レトロウイルスはゲノムを介し垂直に感染する。レトロウイルスの発現調節単位としてウイルスゲノム両端に存在するLTRが知られている。本研究の当該年度の目標は,未知乳癌ウイルスのLTRの構造の決定及び,そのLTRの生理的性格付け,及び感染に果す役割の検討にある。 1)LTR構造の決定:乳癌組織よりmRNAを抽出し,逆転写酵素を用いcDNAを合成した。その後LTR部分に相当するForwardとReverseのプライマ-を用いpolymerase Chain Reactionで増幅した。その結果,約1.2kbのLTRが得られた。得られたLTRを用いクロ-ニングを行い構造を決定した。得られたLTR部分は,約320アミノ酸のオ-プンリ-デングフレ-ムを有しており,上流から280アミノ酸までは,突然変異はあまり認められなかったが,280ー320コ-ドンで著明な突然変異を認めた。 2)生理的性格付け:SHNマウスにおける乳癌ウイルスの転写は,摂取エネルギ-量により変化する事を我々は報告して来た。そこで,我々は,エネルギ-制限下の生理的変動要因を検討した。その結果,エネルギ-制限でプロラクチン産生が特異的に抑制される事,エネルギ-制限により低体温状態が周期的に生じる事,Ca^<++>代謝が大きく変化を受ける事を見出した。これらの要因にLTRが反応する可能性が示唆された。 3)感染経路に果す役割:乳癌ウイルスを始めとするレトロウイルスの感染上の特徴として,感染から発症に到るまでの長期間に亘る潜伏期がある。この長期間に亘る潜伏期の間,宿主のある特定の細胞内に存在していると考えられる。我々は,SHNの乳癌ウイルスが皮フに潜伏する事を発見した。今後は細胞種の同定及びLTR構造上の関連を検討したい。
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