研究概要 |
職業的に低濃度の石綿曝露を受けてきたと考えられる,石綿含有製品製造作業に従事する,原則として昭和50年の特定化学物質等取扱障害予防規則の普及以降に石綿取扱作業に従事した集団を対象として,曝露歴と肺実質および胸膜の所見との関連を検討した.対照群は窯業に従事する作業者を設定した.読影対象数1496例(男性1077:平均年齢42歳,女性419:40歳)出,対象者の石綿取扱作業従事期間は6ヶ月〜29年であった3人の読影者の合意による所見で,じん肺所見PR1以上が92例(男性69例,女性23例):6.1%であった.胸膜有所見(胸膜肥厚,胸膜肥厚斑)は87例(男性64,女性23例):5.8%であった.有所見率は曝露年数の増加及び加齢とともに上昇したが,この上昇は曝露年数が15年以上で統計的に有意であった。胸膜肥厚班は12例に認められ,今までに報告のある一般人口における有所見率(0.03-0.6%)に較べ,高い傾向にあるが,判定基準の相違もあり対照性に問題がある.胸膜肥厚斑についての調査対象内部の年齢をマッチングした症例ー対照研究では,有所見者の曝露歴が長い傾向はあるものの,統計的に有意ではなかった.窯業に従事する,外部対照群との性・年齢訂正を行った上での比較では,長期の石綿曝露歴をもつ者を含めた場合,対象群で5.9%,対照群で3.4%と有意に石綿曝露群で高いが,初期曝露からの年数が15年以下の集団では,有意な差は認められなかった.ロジスチック回帰分析の結果,曝露からの期間が15年以下では有意ではないが,長期曝露者を含めた場合,累積予測曝露量指数(曝露濃度と年数の積)と胸膜所見の発生の間に有意(p<0.05)な相関を認めた.過去の高い曝露農度下における作業歴を反映し,観察期間が潜伏期間に較べ十分ではないためなどの理由が考えられ,この点を明らかにするため,同集団において今後の追跡研究を行う必要が示唆された.
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