研究概要 |
本研究は、臓器特異的なミオシンアイソフォームを指標として、臓器の特定を行う方法の開発を目的とするものである。そこで、まずヒト脳、肝よりミオシンを抽出精製し、これらを抗原として抗ヒト脳(HBM1,2,3,4)及び抗ヒト肝ミオシンモノクローナル抗体(HLM1,2,3,4)を作製した。これらの抗体の臓器特異性をELISAにより検討した結果、HBM1は脳に特異的なミオシンアイソフォームを認識し、HBM3は非筋肉組織に共通のミオシンアイソフォームを、HBM4は骨格筋、心筋以外の全てのミオシンアイソフォームを認識することが判明した。しかし、HLM1,3,4は何れも肝以外の臓器のミオシンとも反応し、肝ミオシン特異的ではないことが明らかとなった。 これらの抗体を用いるイムノブロッティングにより、各臓器におけるミオシンアイソフォームの組成を調べたところ、脳には少なくとも4つ、肝、脾には2つ、腎には3つのミオシンアイソフォームが存在することを明らかにした。脳のミオシンアイソフォームのうち、分子量の大きい2つはほぼ脳に特異的であり、脳以外の臓器では腎及び大動脈に極くわずかに存在するのみであった。HBM1はこの脳特異アイソフォームを認識し、脳を他の臓器から識別するという本研究の目的にかなったものであった。一方、肝のミオシンアイソフォーム組成の大部分が非筋肉組織に共通するものから構成されており、もし肝特異的アイソフォームが存在しても極く微量であり、臓器特定への利用は不可能と思われる。 脳損傷を有する患者及び剖検死体血清からの脳特異ミオシンアイソフォームの検出を、HBM1を用いるサンドイッチELISAで検討した結果、感度に問題を残すもののその検出は可能であった。 以上、本研究の当初の目的はほぼ達成されたと考える。今後高感度化をはかり、脳損傷の血清学的診断法へと発展させたいと考えている。
|