本年度、われわれは大腸菌の菌体毒素であるリポポリサッカライド(LPS)を用いて、エンドトキシンショック時のラットにおける心臓および肺の病態像とケミカルメディーエーター(LT、TNF)の細胞内局在との関係を実験的に検討した。その結果、心臓および肺血管表面に多数の炎症性細胞の粘着が認められ、かつ血管の透過性亢進像および間質の浮腫状変化が認められた。心筋内の毛細管血管においても血管内皮細胞障害と、ときとして炎症性細胞とフィブリンによる微小血栓形成が認められた。心筋細胞においては、種々な程度の浮腫が認められたがミトコンドリアの変性は認められなかった。次に腫瘍壊死因子(TNF)およびロイコトリエン(LT)の局在を免疫電顕法で観察した。その結果、いずれの臓器においても炎症性細胞であるマクロファジーおよび間質細胞のライソゾームにおいて産生放出されたTNFは、血管内皮細胞表面のレセプターに付着し炎症性細胞粘着に大きな役割を果たすことが明らかとなった。また浮腫を生じた心筋細胞内のライソゾームにおいてもTNFが認められた。LTはいずれの臓器においても炎症性細胞で、さらに肺静脈内心筋細胞のライソゾーム内にも認められた。このことから、エンドトキシンショックにおける心筋血管障害は、炎症性細胞で産生されたLTおよび肺静脈内心筋細胞で産生され冠状動脈に流入したLTにより生じた可能性が示唆された。心筋浮腫は、浮腫を生じた心筋細胞のミトコンドリアに変性像が認められないことから、単なる虚血障害によるものではなく心筋細胞自身で産生された内因性TNFにより生じた可能性も考えられた。
|