研究概要 |
我々は造腫瘍性のあるV79細胞の密度阻止された培養上清中に、3種類の増殖制御因子を見いだし(Cancer Res.46:4431,1986),これらの因子の単離と性状解析に取り組んできた。一つは分子量2,000のオリゴペプチドで,正常・悪性を問わず効果があるので、これらに共通した増殖制御プロセスに働くオリゴペプチド前駆体であることが示唆された(Cancer Res.48:3737,1988).もう一つはチミヂンと同定され,チミヂンキナ-ゼ欠損株を用いた実験でチミヂンは密度阻止の状態で細胞内より移行し高濃度となり,最終的にはV79の増殖を阻害することが判明した(BBA 1094:263,1991).一方、分子量約13kDの制御因子は、TGFーβ、腫瘍壊死因子(TNFーα)、Interleukinーlαと生物学的性状及び物理学的性状も異なり、しかもヒト線維芽細胞には全く効果は無いが、種々のヒト癌細胞に対して抑制的に働くため腫瘍増殖抑制因子(TGIF)と命名した.このTGIFは、熱・酸・トリプシンに安定なシングルチェインのポリペプチドであり、その作用はPDGF,EGFにより阻害されない等を報告してきた(J.Cell.Biochem.,in press)。以上よりこのTGIFはいままで報告のない癌増殖に密接に関連した全く新しいタイプのサイトカインであることが明らかになった.またこのTGIFは,癌遺伝子であるHーrasとcーmycのmRNAの発現には影響しないが,腫瘍抑制遺伝子であるp53とRBは逆に増加させる(upーregulation)ことが判明した,このことは核蛋白であるp53蛋白及びRB蛋白と,細胞からの遊離蛋白であるTGIFとの関連を考える上でで非常に興味深い,現在,このV79細胞のp53遺伝子が正常なp53遺伝子かどうかをPCR法を用いた遺伝子解析を行い検討している.また,これらの腫瘍抑制遺伝子の蛋白レベルでの発現量にTGIFが及ぼす影響を検討している.
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