免疫系の調節機構は非常に複雑であり、不明な点が多かったが、近年接着分子の機能解析が進むにつれて、細胞間相互作用に関するインフォメーションが集積され、次第に明らかになりつつある。また、免疫細胞の分化、リンパ組織へのホーミング、あるいは血管外組織における細胞外マトリックス、血管内皮細胞との相互作用においても細胞間接着分子が重要といわれるようになってきた。また接着分子は接着に関与するのみでなく、細胞内へシグナル伝達を行い得る機能分子であることも判明してきた。 このような背景のなかで、申請者らは、独自に確立した抗ICAM-1モノクローナル抗体(MoAb)および精製抗原を用いて殺細胞機序に対する接着分子の影響を検索した。ICAM-1分子が正常人に存在する以上の濃度になると殺細胞、特にNK活性が著明に減少する結果を得た。この成績は、癌のエスケープ現象に遊離接着分子が関与することを示唆し興味深い。LFA-1との接着部位を認識する抗ICAM-1 MoAbのクローニングより得られたV領域可変部アミノ酸シークエンス解析に基づいて合成したペプチドは免疫応答に大きな影響を与えていない。ペプチドの種類・アミノ酸数・濃度依存性を検討している。また抗ICAM-1 MoAbに対し抗イディオタイプ抗体を多数確立し、特異性のもつものにLFA-1結合性を有するかを解析中である。一方、消化器疾患・血液疾患、自己免疫疾患の遊離ICAM-1を測定し、臨床的意義について検討した。消化器癌では遠隔転移症例でICAM-1高値であること、血液疾患では肝浸潤例で高値を示すこと、ATLで高値を示すことなどが判明した。一方、点症疾患では点症局所での発現は著明であるが、遊離型は一般に高くない結果を得ている。今後、免疫応答における機能分子として、接着分子が有する多様な役割について検討したい。
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