研究概要 |
平成4年度における新たに得られた知見は、以下の様である。 1.原発性胆汁性肝硬変患者80例を対象に血清中のimmunoreactive Mn‐SODを測定した結果、66例(83%)の症例で他の肝疾患および正常対照にくらべ著明なMn‐SODの増加を認めた。興味深いことに、組織学的に早期のPBC(ScheuerI,II)においてもMn‐SODが高い値を示し、また病期の進展にともなってMn‐SODはさらに増加した。またUDCA投与によって血清Mn‐SODは低下することが明らかとなった。PBC患者から得られた肝生検組織中においてMn‐SOD酵素蛋白が増加している事が免疫染色で示された。 2.PBC患者の末梢血より赤血球を分離し、赤血球中のフリーラジカル消去系酵素の活性を測定したところ、Cu,Zn‐SOD活性も亢進していることが判明した。すなわち、PBC患者においては、細胞のミトコンドリアに存在するMn‐SODのみならず細胞質に局在するCu,Zn‐SODを何らかの機序で誘導されている事が明らかになった。この成績は、PBCの病態にフリーラジカルが大きく関与している事を示すものである。 3.PBC患者血清中のサイトカイン(TNF,IL‐1,IL‐6)をELISAで測定したが、正常対照および慢性肝炎患者にくらべ有意の差は認められなかった。 4.ヒト肝癌細胞を用い、Mn‐SOD産生に与えるサイトカインの影響を調べたところ、TNF,IL‐1およびIL‐6によってMn‐SODが著明に誘導されることが明らかになった。TNF・IL‐1がMn‐SOD産生を誘導することは、すでに知られているが、ヒト肝細胞に対する作用に関しては、これまで不明であった。また、IL‐6にもMn‐SODを誘導するという成績は、われわれが今回初めて明らかにしたものである。 さらに、その後の実験により発癌剤の一種であるTPAにも同様の作用があることを示す成績が得られつつあり、Mn‐SODの発現にprotein kinase Cが関与している可能性が示唆されている。 以上のように、PBCとフリーラジカルとの密接な関連性が徐々に明らかになりつつある現状である。
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