研究概要 |
ヒト腸管粘膜における免疫学的防御機構の加齢による変化について,IgA抗体産生を調節するT細胞機能に着目して検討した。内視鏡的手法により,腸管の免疫能を司どるリンパ装置であるパイエル板部を生検採取して,老年群および若年群のT細胞培養株を樹立し,得られた培養細胞株におけるIgA抗体産生能について老年群と若年群を比較したところ,老年群で有意の低下が認められた。このように腸管粘膜のT細胞機能が加令により低下するため,老年者は粘膜防御機構の破綻をきたしやすい状態にあり,生体内への異物抗原の侵入を容易にし,腸管粘膜の傷害が生じやすくなっていると推察される。 次に,老年者の腸管粘膜防御能の低下への対策について基礎的な検討を行うため,in vitroにおけるインターロイキン2(IL2)の投与効果を検討した。IL2はT細胞の増殖および免疫機能賦活因子であり,老年者では,血清中のIL2の量が減少しているが,IL2に対する反応性は保たれていると報告されている。そこで,老年群の培養細胞株にIL2を投与して,IgA抗体産生能を指標として,IL2により免疫機能が改善可能が否か,改善可能とすればどの程度までの回復が期待できるかを実験的に明らかにしようと試みた。しかし、現在のところ,老年群の培養細胞株において,IL2による有意の免疫能賦活効果は得られておらず,今後IL2の投与量や投与方法に検討を加えて,免疫能の改善が得られるかどうか実験をすゝめていく予定である。
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