研究概要 |
本研究は、先の研究代表者である安日により考案された研究計画に従い、安日等がマウスの実験系で発見したこと(Eur J Immunol 1991,21:2907-2914)が、人間の老化現象にも適応できるかを検討したものである。高齢者のパイエル板粘膜を常時たくさん集めることは、本学附属病院では不可能であるため、高齢者10例前後からバイオプシーした回腸粘膜から、筆者の開発した方法(Frontiers of Mucosal Immunology,1991.Excerpta Medica:83-84)を用い、長期継代T細胞培養株を樹立し、このT細胞のIL-2産生能を対照若年群と比較することにより、老化における腸管免疫の状態の解明を試みてきた。安日等は、回腸粘膜由来単核球の短期間培養で、IL-2の産生能が高齢者群で有意に低下していることを報告している(Frontiers of Mucosal Immunology,1991.Excerpta Medica:443-446)。昨年度までの長期継代T細胞培養株を用いた実験では、小数例の場合は高齢者群で有意の低下が認められたが、8例以上の比較では有意差は消失した。また、筆者が大腸粘膜由来の長期継代T細胞培養株を用いて、潰瘍性大腸炎患者と対照群を比較した結果でも、種々のサイトカイン産生能における両群間の差は認められなかった(消化器と免疫 1992,No26:41-45).以上の結果は、長期継代T細胞培養株を用いて老化における病的状態を解析することは不適切であり、できるだけin-vivoの状態を適切に反映する方法をとることが重要であることを示唆している。従って、本研究の進展には、粘膜局所におけるmRNAの発現とこれに及ぼすIL-2添加の影響を調べることが必要であると考えられる。
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