研究概要 |
本邦では、年間約2万人が肝細胞癌により死亡しており、その約80%がB型肝炎ウイルスあるいはC型肝炎ウイルスによる慢性肝障害を発生母地としており、危険因子と考えられるが、肝発癌の機序は未だ解明されていない。正常細胞の癌化は、発癌遺伝子の活性化や癌抑制遺伝子の不活化などの、遺伝子変異の結果生じると考えられている。我々も、多くの癌細胞で活性化の報告されているras遺伝子について点突然変異を調べたが、肝細胞癌では12例中1例も認められなかった。そこで、様々なヒトの癌で変異の報告されている癌抑制遺伝子p53について解析した。対象は、肝細胞癌20例で、男性18例、女性2例、平均年齢56才、HB_S抗原陽性8例、陰性12例である。凍結肝組織(癌部,非癌部)よりgenomic DNAを抽出し、Southern blot hybridization法により、第17染色体短腕の遺伝子の多型性を調べるpYNZ22およびpHF12ー2をプロ-ブとし、p53遺伝子の近傍の変化を検索した。pYNZ22プロ-ブでは14例に多型性がみられ、そのうち5例(36%)にヘテロ接合性の消失(LOH)が認められた.又、pHF12ー2プロ-ブでは6例に多型性がみられ、そのうち2例(33%)にLOHが認められた。LOHの認められた5例はすべて腫瘍径30mm以上の癌で、それ以下の小さな癌には1例も認められなかったことより、肝細胞癌における第17染色体短腕(p53遺伝子)の欠失は、癌の発生よりも、癌の増大・進展に関与していることが推察された。polymerase chain reaction(PCR)法でp53遺伝子を解析する為,各種の間で保存されている領域すべてを含むエクソン2〜9の、各エクソンを増幅する約20merのプライマ-を合成した。今後、このプライマ-を用いて、p53遺伝子の塩基配列を調べ、点突然変異などの微細な変化を検索する予定である。
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