本研究の目的は種々の肝細胞障害における酸素ラジカルとその防御機構であるグルタチオン役割を検討することにあった。 グルタチオンは酸素ラジカルから細胞を防御する重要な因子である。ラット潅流肝及び遊離肝細胞を用いて、バゾプレシンがグルタチオンの放出を促進することをみいだした。これはV1受容体の特異的阻害薬で抑制された。またHepG2細胞を用いて肝細胞からのグルタチオン放出に及ぼすモルモン、サイトカインの影響を検討した。この系でもバソプレシンがグルタチオン放出を増加させることを見いだし、プロテインキナーゼCが関与していることが明らかになった。またcAMPを介する系、cGMPを介する系及びカルシウム動態もグルタチオン放出と密接な関連があることがわかった。酸素ラジカルにたいする防御機構に生体ホルモンが重要な役割を果たしていることが示唆された。 胆管閉塞ラットでは肝、腎グルタチオンが増加していたが、腎の過酸化脂質も増加していた。このモデルでは虚血一再潅流やゲンタマイシンによる腎障害が増強され、これには腎の過酸化脂質増加を伴っていた。このことは黄疸時には腎は酸化的ストレスにおかれており、刺激により容易に腎障害をおこし易いと考えられた。 慢性鉄過剰ラットでは肝内の過酸化脂質が増加していたほか、発癌と関連する8-hydroxyguanosineの増加が認められた。ヘモクロマトーシスの肝に癌の発生が多い原因の1つを明らかにした。またカドミウムを1年間慢性投与したラットにおいては、肝、腎グルタチオンが増加していたが、過酸化脂質の量には変化がみられなかった。腎障害がみられたが、肝障害は明かでなかった。
|