研究概要 |
今年度は細胞内メッセンジャーの分泌反応への関与を詳細に検討するために,細胞膜に小さな穴を開けて,膜不透過性の物質を細胞内に導入して細胞内メッセンジャーの濃度を直接コントロールするためpermeabilizationをおこなった。permeabilizationの方法には電気ショックによるものやジギトニン,サポニンなど界面活性剤によるものがあるが、われわれは溶連菌の毒素であるStreptolysin O(SLO)を用いて膵腺房細胞でpermeabilized cellのシステムを確立した。この系ではメディウム中のCa^<2+>濃度をCa^<2+>/EGTA bufferにより調節し,細胞内のCa^<2+>濃度を直接コントロールすることが可能である。またSLO投与後10分以内に細胞内のLDHの90%以上が細胞外に漏出することから,膜不透過性の物質,さらには高分子の蛋白質も細胞内に直接入れることが可能であると思われる。今年度は正常膵腺房細胞とpermeabilized aciniの両者の実験系を用いて,特にCa^<2+>-カルモデュリン系を中心に細胞内メッセンジャーの相互作用につき検討した。 カルモデュリンは代表的な細胞内カルシウム受容蛋白質であり,Ca^<2+>と結合して活性化され,カルモデュリン依存性蛋白質リン酸化酵素(カルモデュリンキナーゼ)を活性化する。正常細胞ではCCKやカルバコールによるアミラーゼ分泌反応はカルモデュリン阻害剤であるW7やカルモデュリンキナーゼII阻害剤であるKN62により有意に抑制された。このことからCa^<2+>系を介する分泌反応ではカルモデュリンが重要な役割を果たしていると考えられる。 permeabilized aciniではアミラーゼ分泌はCa^<2+>の濃度依存性に増加し,Ca^<2+>濃度を1μMにするとアミラーゼ分泌は最高に達した。W7,KN62はこのCa^<2+>依存性のアミラーゼ分泌には影響は与えなかった。ところがCa^<2+>存在下(1μM)でのTPA,GTPγS,cAMPなどによるアミラーゼ反応の増強作用は有意に抑制した。このことからカルモデュリンはCa^<2+>と他の細胞内メッセンジャーとの相互作用に重要な役割を果たしていることが示唆された。
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