研究概要 |
肝細胞癌発症にともなうAFPの上昇は臨床的に頻繁に認めらる現象である。また胎生期の血清蛋白主成分はAFPであり、誕生とともに肝実質細胞でのAFP産生が停止しアルブミン合成が始まる。成人では重症型肝炎や肝切除後の肝再生に一致してAFPが産生される事が知られている。AFPとアルブミン産生は、肝細胞の増殖・分化と深くかかわっていると考えられる。またすでにアルブミンとAFPの遺伝子は同一のクロモソーム上に存在することが知られ、それぞれの上流にはエンハンサーやプロモーター遺伝子が存在し、両蛋白の産生の調節している事が次第に明らかにされた。さらに玉置らはアルブミンとAFPのスイッチングに関し両者の発現を制御する遺伝子の存在を報告し注目されている。これらの蛋白の産生調節機構の解析は、新たな段階に入ったと考えられる。 当教室で樹立したヒト肝癌細胞株JHH‐4,5,7の産生するアルブミンやAFPの生化学的解析を行い、ヒト血清アルブミンと免疫的、分子量的に同一である事を示した。またAFPについてもヒトAFPと同一で糖鎖heterogeneityでは肝癌由来AFPに対応している事を確認している。これらのthyroid hormon、glucocorcicoidによるアルブミン、AFP産生量の変動を測定すると、thyroid hormon添加時にはJHH‐7株ではAFP産生量の著明な添加を認めた。一方JHH‐5ではアルブミンの産生増加傾向を認めた。 glucocorcicoid処置においては各細胞株の産生する総蛋白量は2から3倍に増加する。しかし総蛋白あたりのアルブミン、AFP量は変化無くthy‐roid hormonに対する細胞の反応とは異なる結果であった。 両hormon共に核リセプターが明らかとなってきており、その両リセプターの機能の差異によるか、その他の細胞機能に対する影響かはこれからの問題である。またJHH‐7株よりAFPとアルブミン産生クローンの作成も進んでり、これらのクローンによる遺伝子解析も必要になっている。
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