研究概要 |
結核菌の分離・同定のためにPCR法を応用し、以下の結果を得た。 (1)PCR法の特異性 現在までに65kDa、38kDa、19kDa、DnaJなどの結核菌遺伝子の塩基配列が報告されている。我々は数組のプライマ-を合成し検討したが、結果的に38kDa抗原遺伝子のPCRが反応性に優れていた。この遺伝子断片は結核菌群(M.tuberculosis,M.bovis,M.microti,M.africanum)に共通に保存されており、これらの菌種では一様に増幅されるものの、人に病原性を持つ他の非定型抗酸菌群(M.avium,M.intracellulare.M.kansasiiなど)とは反応せず、一般のグラム陽性・陰性菌とも交又反応は認めていない。以後このプラマ-を用い、結果菌の検出について検討した。 (2)PCR法の感受性 精製した結核菌のDNAを用い、PCRの感受性について基礎的検討を行った結果、10pgのDNA量まで検出可能であった。これは理論的には約2000個の菌のDNA量に相当する。また、菌数が既知の結核菌浮遊液を用い、10倍希釈系列の菌液を作成し、各々の菌液のDNA抽出操作の後PCRを行なった場合の検出限界は100個であった。さらに我々はより感度を上げるために二組のプライマ-を用い、二段階にPCRを繰り返す、いわゆるnested PCRについて検討した結果、DNA量としては10fg、菌量としては0.1個まで、それぞれ約1000倍検出感度が上昇した。 (3)臨床検体からの結核菌の検出 臨床検体として喀痰、胃液、胸水、腹水、髄液、尿などを用い、PCR法による結核菌の検出を試みた。124検体のうち、細菌学的に結核菌が証明された検体はすべてPCR法でも陽性で、感受性は100%であり偽陰性の検体はみられなかった。また従来法で結核菌が証明されなかった108検体のうち100検体はPCR法でも陰性で、特異性は93%であった。
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