研究概要 |
私達は培養に長期間を要するために迅速診断が困難な結核菌を対象とし、その分離・同定のためのPCR法について検討を行ってきた。 (1)PCR法の特異性と感度:現在までに数種類の結核菌遺伝子の塩基配列が報告されているが、PCRへの応用という見地から、私達は数組のプライマーを合成し有用性を検討した。その結果38kDa抗原遺伝子の断片に対するPCRが優れており、結核菌群(M.tuberculosis,M.bovis,M.microti,M.africanum)に特異的に反応した。感度はFirst PCRで10pgのDNA量、Second(nested)PCRで10fgに上昇し、菌量としても数個の菌まで検出可能であった。 (2)臨床検体からの結核菌の検出:臨床検体として喀痰、胃液、胸水、腹水、髄液、尿などを用い、PCR法による結核菌の検出を試みた。417検体のうち、細菌学的に結核菌が証明された検体は66検体で、うち64検体はPCR法でも陽性、2検体は陰性で、感受性は97%であった。また従来法で結核菌が証明されなかった351検体のうち323検体はPCR法でも陰性で、特異性は92%であった。 (3)抗酸菌同定のためのPCR:AIDS患者の増加に伴い、非定型抗酸菌症も増加傾向にあるため、広く抗酸菌に反応するPCRも臨床的に重要である。私達はRibosomal RNAをコードする遺伝子がこの目的のために最適であることを確認し、抗酸菌に共通するプライマーを作成した。そして臨床検体からPCRにて抗酸菌を検出すると同時に、DNAプローブ法を併用することにより、検出された抗酸菌の迅速な同定が可能となった。塗沫陽性、培養陰性の検体には非常に有用と思われる。 以上のように、当初の目的であった結核菌の迅速検出に関しては満足すべき結果が得られ、さらに同定法にも応用可能であることが示された。
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