研究概要 |
特別養護老人ホ-ムに入所中の痴呆老人に対し,看護婦や寮母の協力のもとに排尿障害の実態調査を施行し,ついで尿失禁に対する薬物療法を試みた。排尿障害の実態調査の結果,対象患者68名中排尿行為が自立しているのは19名,半自位が18名,合介助が31名であり,痴呆や歩行障害が高度なもの程,またアルツハイマ-型痴呆よりも脳血管性痴呆の方が全介助者が多かった。尿失禁は58名(85%)にみられ,夜間遺尿,腹圧性尿失禁,切迫性尿失禁が多く,尿失禁の回数と痴呆の重症度との間には明らかな関係がみられなかった。 薬物療法は切迫性尿失禁と考えられる15名(男1名,女14名)に対し抗コリン薬であるterodilineとoxybutyninを使用した。薬物は少量から漸増し,最大量の達した4〜8週の時点で,尿天禁の回数および失禁量から治療効果を着明改善,改善,軽度改善,不変,悪化に判定した。結果は着明改善6名,改善3名,軽度改善1名,不変5名で,悪化例はなく,改善の程度は血管性痴呆とアルツハイマ-型痴呆とで明らかな差はなく,痴呆の程やおむ一着用の有無とも無関係であった。以上の結果から,痴呆の原因や程度にかかわらず,切迫性尿失禁に対して薬物療法を試みる価値があるものと考えた。
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