前頭葉は知能にも関与すると同時に排尿機能にも重要な役割を有しており、排尿中枢の存在する場所とされている。しかし、排尿機能に前頭葉のどの部位が関与するのか、排尿障害が起こるとすると蓄尿障害なのか、排出障害なのか、あるいは両障害なのかという点については不明であり、尿流動態検査を用いての検討はほとんどなされてなかった。そこで、前頭葉に限局する病変を有する6名について詳細な問診と尿流動態検査を施行して検討した。その結果、尿閉、溢流性尿失禁などの排出障害を主体とするものと、頻尿、切迫性尿失禁などの蓄尿障害に加えて排出障害を有する群とに分けることができた。前者は前頭葉内側上部病変で、排尿障害の病態機序として膀胱の無緊張性収縮が認められ、後者は内側下部病変で、膀胱容量の減少、無抑制収縮、排尿筋括約筋協調不全が認められた。無緊張性収縮や排尿筋括約筋協調不全が前頭葉病変で起こることは従来知られてないことで新知見と考えた。 排尿障害の治療は通常下部尿路に直接作用する薬物が使用されるが、副作用が少なくなく、高齢者では使用しにくいことが多い。そこで、脳血管障害患者における種々の精神症状に有効とされる脳代謝改善薬が排尿障害にも有効かどうかを検討した。使用した薬物はbifemelane hydrochlorideであり、対象は頻尿・尿失禁を有する40名の脳血管障害患者である。8週間経口投与した結果、頻尿・尿失禁の全般改善度は改善以上が25%、やや改善以上が67.5%であった。これらの薬物は認知機能、意欲、積極性を改善することが知られており、排尿障害もこれらの精神機能の改善によることが考えられ、副作用がほとんどないことから、脳血管障害患者の排尿障害の第一選択薬と思われた。
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