研究概要 |
目的:ラット胎仔青斑核ノルアドレナリン(NA)神経細胞を用いる移植実験により、中枢神経系NA神経細胞に対する神経栄養因子の発見・同定を目的とした。 材料と方法:胎生17日目のラット胎仔より青斑核を含む脳幹部を取り出し、神経細胞浮遊液を作製、成熟ラット海馬内に移植した。被移植動物に対しては、移植前にあらかじめ以下の3処置を加えておいた。(1)移植と同側の青斑核を移植2週間前に電流にて破壊、(2)同側脳弓ー海馬采(F-F)切断、(3)前処置なし。移植8週後、動物を断頭屠殺、移植側および対側の海馬を取り出し、カテコラミン抽出操作の後、HPLCにてNA濃度を測定した。3群間におけるNA濃度の差を比較することにより、各前処置による移植NA神経細胞に対する栄養効果の有無を検討した。 結果:無処置の成熟ラット海馬NA濃度238±66ng/g tissueに対し、(1)群299±33(n=9),(2)群366(n=3)および(3)群271±60(n=8)であった。 考察および結語:青斑核を破壊した(1)群と無処置の(3)群の間にNA濃度の差はなく、昨年度の本研究報告書に記載、報告したNA神経細胞の前頭葉内移植実験の結果とも合わせ考えると、青斑核破壊による移植部位に投射するNA神経系の除神経のみでは、移植NA神経細胞に対する栄養効果の発現は認められないことが確認された。これに対し、F-F切断を行なった(2)群ではより高値を示し、F-F切断による多系統の求心および遠心線維(NA系、アセチルコリン系を含む)の損傷に伴い、海馬内で移植神経細胞に対する栄養効果が高まる可能性が示唆された。この栄養効果に関し、可溶性の神経栄養因子、および非可溶性因子の両面から検討が必要と考えられた。
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