研究概要 |
本年度は主にPC12細胞を用い,内在性ガングリオシド(Gg)の存在様式状態を変化させたときの分化・増殖各々の細胞内情報伝達系への影響を調べた。即ち,従来コレラ毒素Bサブユニット(CTB)はガングリオシドGM1(GM1)に特異的かつ高親和性に結合することが知られており細胞膜上にCTBが結合するとヒレセプタ-であるGM2は細胞骨格と相互作用をしていわゆる“Capping formation"を起こす。CTBの結合により細胞膜上のGM1の存在様式は大きく変化する訳である。このような処理が本細胞系にとって分化促進因子である神経成長因子(NGF)と増殖因子である上皮成長因子(EGF)の情報伝達系への影響を観察した。その結果1,NGFのPC12細胞からの神経突起伸展作用はCTBの共存下で著明に増大した。2,[ ^3H]チミドン取込実験から,CTBはNGFの[ ^3H]チミドン取込抑制作用を著明に増強させた。3,CTBの処理によりNGFのPC12細胞への結合能には有意な変化はなかった。4,NGFの情報伝達系として重要なキナ-ゼリン酸化カスケ-ド中にあるS6蛋白キナ-ゼ及びelongation factor2(EF2)キナ-ゼ活性はNGF単独よりもCTB共存下でより著明な活性化が起きた。5,whole cellの系でリボゾ-ムS6蛋白の燐酸化はCTB共存下でNGF単独群に比し著明なリン酸化状態を示した。6,CTB処理は本細胞系ではEGFの生物学的効果を減弱させた。またEGFの結合も減少させた。7,NGF作用増強効果はサイトカラシンBの前処理で消失したがコルヒチンによる前処理の影響はうけなかった。8,代謝疾患でGM1の細胞膜上への蓄積を来たすGM1ガングリオシ-ドシス患者細胞でもEGFの結合は著明に減少していた。以上の結果は,細胞膜上でのGgの存在様式を変化させるだけで細胞の分化・増殖過程に大きな影響を与え得ること,またGgの生理機能発現に細胞骨格との相互作用が重要な役割を占めていることを明らかにした。
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