研究概要 |
平成5年度科学研究費補助金研究成果報告書概要 本年度は昨年度からの続きで神経栄養因子ファミリーの受容体であるTrkA,B,Cに対する抗体作成を試み高力価の良質なポリクロナール抗体を得た。このうち、TrkAについてはヒト末梢神経系にその発現をmRNAと蛋白(免疫組織化学的)の存在から証明した。また、小児の悪性腫瘍の一つである神経芽細胞腫患者手術標本中にTrkAが発現していることを証明し、その発現の程度と臨床予後が逆相関することをつきとめた。しかし、抗リン酸化チロシン抗体による検討からこれら患者腫瘍細胞中に存在するTrkAは不活性な状態にあることが示唆された。したがって、TrkA蛋白の発現だけでなくその発現された受容体が実際に生体内で機能しているか否かの検討が今后重要問題となってくることが予想された。一方、昨年度の成果からGM1ガングリオシド(GM1)がTrkAと直接何らかの関係を有しその機能を制御している可能性が示唆されたため、TrkAに対する抗体(α-TrkA)を用い種々の細胞から免疫沈降を行い、その免疫沈降物を用いた免疫複合体チロシンキナーゼ(TK)活性の測定系を樹立した。そして、その測定系を用いin vitroに於けるTrkAのTK活性に及ぼすGM1の影響を検討した。その結果、GM1は直接TrkAのNGFによる自己燐酸化能を増大させた。この事実は、従来知られてきたGM1のNGF作用の増強作用の分子的基盤を明らかにするものであり重要な成果と考えられた。現在、この現象のさらに詳細な分子メカニズムと生体内に於けるTrkAとGM1との細胞内相互関係について検討を急いでいる。
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