研究概要 |
1.正常人を対象に運動単位活動を用いて,脊髄神経回路活動の検索のための新たな方法を開発した。(1)この方法のためにコンピュータプログラムを開発した。(2)H反射を導出してその中に含まれる単一運動単位を記録した。(3)運動単位の発火確率が50%になるように刺激の強さを自動的に調節し,この時の刺激強度をcritical firing stimulus(CFS)と名付けた。CFSは当初は刺激装置からの出力(V)をそのまま使用していたが,Ia線維の閾値強度をPSTHの方法を用いて求め,これを差し引くことでデータの信頼性を高めた。(4)運動細胞に対する種々の入力の効果は,条件刺激を先行して与えたときのCFSの変化によって判定した。(5)運動単位の種類(閾値)は発火確率が50%となるときのH反射の大きさ(critical firing level,CFS)によって決定した。 2.本法による結果を従来から確立されているH反射を用いた方法での結果と比較検討した。(1)対象とした反射回路は抑制回路と促通回路でそれぞれ相反性Ia抑制,異名性Ia促通を用いた。(2)効果の見られた運動単位についてみると,条件刺激効果量はH反射を用いた方法と極めてよく相関した。(3)条件刺激効果の測定感度はH反射を用いた方法とほぼ同等であった。(4)運動単位によっては効果の全く見られないものもあり,末梢神経からの神経結合が運動単位によって量的にも質的にも異なっていることが明らかにされた。これはH反射では得られない知見である。 3.異名性Ia促通については大腿四頭筋からヒラメ筋に対するIa結合率をヒトでは初めて明らかにし,ネコ,猿に比ベてやや低い値を示した。 4.相反性Ia抑制の拮抗筋随意収縮による変化については,従来から議論があったが,本法により純粋な神経回路の活動性の変化として増加することがほぼ解明された。 5.運動障害患者の結果も得られつつあるが,結論はまだ出ていない。
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