研究概要 |
心原性脳塞栓症患者では血小板凝集能の亢進は年令と性を適合させた対照群に比して明らかではなかったが、生体内放出反応の指標であるBTGとPF4の上昇がみられ、しかも脳血栓症患者に比しBTG/PF4比が大きかったことから、これらの放出因子の上昇は心内での血小板活性化を示唆していると考えられた。凝固系の分子マーカーではATIIIの低下は心原性脳塞栓症患者では脳血栓症患者より有意であったが、その程度は軽度に止まったのに対し、TATは心原性脳塞栓症で明らかに上昇しており、しかも発症直後ほど高値を示し、以後徐々に低下したことから、TATは心内での凝固の活性化を最も鋭敏に反映するマーカーと考えられた。線溶系の分子マーカーではPICの上昇とD-ダイマーの上昇が心原性脳塞栓症で観察され、経時的な観察ではこれらのマーカーの上昇はTATの上昇より遅れてみられたことから、発症直後には線溶が凝固の活性化を下回るため血栓形成傾向が助長されており、後に代償機転として線溶が優位になると考えられた。TAT,PIC,D-ダイマーはワーファリン療法後有意に低下したことより、抗凝固療法の効果判定の指標として有用と考えられた。また、INR2以下ではTATが十分正常化しない傾向のあることから、ワーファリンによる心内凝固活性化の抑制には少なくともINR2以上にコントロールする必要があると考えられた。画像診断との対比では、経胸壁または経食道心エコーまたは胸部造影CTで心内血栓が認められた症例では大部分で分子マーカーの異常がみられたが、分子マーカーが正常な症別もあり、これらの症例では血栓は器質化しており、塞栓源とはなりえないと考えられた。人土弁置換例や僧帽弁狭窄症と心房細動の合併例ではトロンボチスト10%台のワークファリン療法ではTATの上昇を抑制しえず、これらの高リスク群はINR3以上の強力なワーファリン療法が必要と考えられた。
|